外資系企業では、海外の親法人又は関係会社から日本の法人若しくは日本支店に出向等で来日され、日本で一定期間、従業員として働かれる方もいらっしゃるかと思います。その場合、支払う給与等に源泉所得税がかかるのかどうかというのは少し複雑になっていますので、今回は海外からの出向者に支払う給与について、源泉所得税の取り扱いについて解説します。
Index
1.居住者と非居住者
はじめに確認する必要があるのが、その出向者が日本の所得税法上において居住者なのか非居住者なのかということです。
居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいいます。(所法2①三)
居住者は非永住者以外の居住者と非永住者に分けられ、非永住者とは、居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年以下である個人をいいます。
一方で非居住者とは、居住者以外の個人をいいます。(所法2①五)
上記の定義と課税所得をまとめると以下のようになります。
個人の区分 | 定義 | 課税所得の範囲(所法7) | |
居住者 | 非永住者以外の居住者 | 次のいずれかに該当する個人のうち非永住者以外の者 ・ 国内に住所を有する者 ・ 国内に現在まで引き続き1年以上居所を有する者 |
すべての所得 |
非永住者 | 居住者のうち、次のいずれにも該当する者 ・ 日本国籍を有していない者 ・ 過去10年以内において、国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である者 |
国外源泉所得以外の所得および国外源泉所得で日本国内において支払われ、または国外から送金されたもの | |
非居住者 | 居住者以外の個人 | 国内源泉所得 |
また、居住者の定義に出てくる住所とは、所得税基本通達2-1において、各人の生活の本拠とされており、生活の本拠であるかどうかについては客観的事実によって判定されます。
所得税法上の居住者に該当するか否かについて争われた裁判で、令和元年11月27日の高裁判決では、客観的事実については、滞在日数、住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在等を総合的に考慮して判断することが示されています。
2.給与所得の源泉徴収義務について
給与所得の源泉徴収義務については、居住者に支払う給与か、非居住者に支払う給与かで取り扱いが異なります。
(1) 居住者
居住者の場合、所得税法第183条第1項において、「居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。」と規定されています。
(2) 非居住者
非居住者の場合、所得税法第212条第1項において、「非居住者に対し国内において国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。」と規定されています。
また、国内源泉所得については、俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するものが国内源泉所得に該当すると規定されています(所法161①十二イ)。
従って、出向者の賞与について、国内での勤務期間に基づいて計算された賞与の金額を出向者が帰国後に支給されたとしても、国内での勤務に起因するものであるため、国内源泉所得に該当することになります。
なお、非居住者に対する給与所得の源泉所得税率については、20.42%の分離課税とされますので、この点についても注意が必要です。
3.みなし国内払いとは
ここまで、所得税法上の居住者及び非居住者定義及び源泉徴収義務について解説しましたが、1つ注目していただきたい点があります。
上記2における条文を確認いただきたいのですが、第183条第1項においても第212条第1項においても、国内において給与等の支払いをする者又は国内において国内源泉所得の支払いをする者と規定されています。
では、国内ではなく国外において支払えば源泉徴収は不要となるのでしょうか。
結論としては、国外において支払えば源泉徴収は不要となります。
しかし、非居住者についてはみなし国内払いと呼ばれる規定があります。
みなし国内払いとは、国内源泉所得の支払が国外において行われる場合において、その支払をする者が国内に住所若しくは居所を有し、又は国内に事務所、事業所その他これらに準ずるものを有するときは、その者が当該国内源泉所得を国内において支払うものとみなして、所得税法第212条第1項の規定を適用する(所法212②)。
従って、上記みなし国内払いに該当するようなケースについては、国外で支払っていたとしても、国内で払ったものとみなして源泉徴収義務が発生することになります。
4.おわりに
今回は海外からの出向者に対する源泉所得税の取り扱いについて説明しましたが、確定申告が必要かどうかについては別の取り扱いとなりますので別途検討が必要です。
また、期中において非居住者から居住者になる場合など、様々なケースが想定されますので、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。
竹田
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