海外に進出している日本法人が子会社の財務状況の改善を迫られるケースは良く見受けられます。その場合に検討される方法の1つとして現物出資という方法がありますが、今回はその現物出資を行った場合の税務上の処理や日本法人側での懸念点等について解説いたします。
Index
1.現物出資とは
法人の設立や新株発行に当たっては金銭の払い込みを行うことが一般的ですが、金銭以外の財産(土地・建物などの不動産や有価証券、金銭債権など)をもって出資することも可能となっております。この金銭以外の財産をもって出資を行うことを現物出資といいます。
法人が債務超過に陥っている場合に、借入金を資本金に振り替えるデット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap (DES))も現物出資として取り扱われます。
2.法人税法上の取り扱い
(1)非適格現物出資
法人が現物出資を行った場合、原則としては非適格現物出資として取り扱われます。非適格現物出資とは現物出資により受け入れる資産・負債を時価で受け入れることになります。
現物出資法人及び被現物出資法人の取り扱いについては以下の通りです。
なお、消費税の取り扱いについては、下記3をご参照ください。
① 現物出資法人
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
諸負債 | 帳簿価額 | 諸資産 | 帳簿価額 |
有価証券 | 時価 | 譲渡損益 | 差額 |
② 被現物出資法人
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
諸資産 | 時価 | 諸負債 | 時価 |
資産調整勘定* | 差額 | 資本金等 | 時価 |
*貸方側に差額が発生した場合には負債調整勘定となります。いずれの場合においても、60カ月で均等償却することとなります。
(2)適格現物出資
法人が現物出資を行った場合において、一定の要件に該当する場合には、適格現物出資として取り扱われます。適格現物出資の場合、現物出資により受け入れる資産・負債を帳簿価額で受け入れることとなるため、被現物出資法人で資産調整勘定等は発生せず、現物出資法人においても譲渡する資産と負債の差額が有価証券の帳簿価額となるため、譲渡損益は発生しないこととなります。
現物出資法人及び被現物出資法人の取り扱いについては以下の通りです。
なお、消費税の取り扱いについては、下記3をご参照ください。
① 現物出資法人
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
諸負債 | 帳簿価額 | 諸資産 | 帳簿価額 |
有価証券 | 差額 |
② 被現物出資法人
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
諸資産 | 帳簿価額 | 諸負債 | 帳簿価額 |
資本金等 | 差額 |
(3)適格現物出資の要件
適格現物出資の要件は大きく、①グループ内の適格現物出資と②共同事業を営むための適格現物出資の2つに分けられます。また、①のグループ内の適格現物出資については、100%支配関係がある場合における適格現物出資と50%超100%未満の支配関係にある場合の適格現物出資に分けられます。
それぞれのカテゴリーにおける適格要件を満たすための要件は下記の通りです。
100%支配関係 | 50%超100%未満の支配関係 | 共同事業 |
・金銭等不交付 | ・金銭等不交付
・主要資産・負債の引継 ・従業者引継 ・事業継続 |
・金銭等不交付
・事業関連性 ・規模又は経営権 ・主要資産・負債の引継ぎ ・従業者引継 ・事業継続 ・株式継続保有 |
3.海外子会社に対して現物出資を行った場合
上記2(3)において適格現物出資の要件をまとめていますが、海外との法人における現物出資については注意が必要です。
法人税法第2条第1項12の14において適格現物出資の要件が規定されていますが、適格現物出資の要件から以下の取引が除かれています。
① 外国法人に国内にある資産又は負債の移転を行うもの(国内の資産が外国法人の恒久的施設に属するものは除きます。)
② 外国法人が内国法人又は他の外国法人に国外にある資産又は負債の移転を行うもの(他の外国法人に国外資産等の移転を行う場合には、その国外資産等が他の外国法人の恒久的施設に属するものに限る。)
③ 内国法人が外国法人に国外資産等の移転を行うもので、国外資産等の全部又は一部が外国法人の恒久的施設に属しないもの
つまり、日本にPEがある外国法人を除いて、日本の法人が外国法人である海外子会社に現物出資により資産・負債を譲渡した場合には、適格現物出資の要件を満たさないことから非適格現物出資として取り扱われ、時価評価が必要になります。
よくあるケースとしては、海外子会社の債務超過や財務状況等を考慮してDESを行うことがありますが、このような場合については、日本の親会社が有する貸付金の時価は簿価と一致しておらず、貸付金の回収可能性等を考慮して時価を算定します。
また、貸付金の時価が帳簿価額を下回る場合、DESにより債権譲渡損を認識する必要がありますが、その場合、海外子会社の再建など合理的な理由があると認められない場合には、国外関連者に対する寄附金に該当し、全額が損金不算入として取り扱われる可能性がありますので留意が必要です。
4.消費税法上の取り扱い
消費税法上は国内において事業者が行った資産の譲渡等には消費税が課されます。
現物出資は、消費税法施行令第2条第1項第2号において資産の譲渡等に該当する旨が定められており、その課税標準は消費税法施行令第45条第2項第3号に記載されている通り、出資により取得する株式の取得時における金額とされています。
従って、現物出資により譲渡する資産に応じて課税・非課税等を判断し、株式の取得時の金額により評価することになります。
例えば、海外子会社とのDESでは、日本の親会社側で貸付金を譲渡することとなるため、取得する有価証券の時価が100の場合には100が評価額となります。また、金銭債権の譲渡については5%が非課税売上として認識されますので、100×5%の5が非課税売上として認識されます。
ちなみに、海外子会社へ債権を譲渡する場合に、非課税資産の輸出に該当するのではないかとの懸念もありますが、消費税法施行令51条第1項に金銭債権の輸出は資産の輸出に含まれない旨が明記されておりますので、非課税資産の輸出には該当しません。
5.おわりに
組織再編に関する税務上の取り扱いについては非常に複雑になっており、それぞれの事例に応じた詳細な検討が必要となります。
弊所においても組織再編に関するアドバイスや検討を行っておりますので、お困りの際はお気軽にご連絡ください。
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